「飲食店の接客がどこかおかしい」 バックナンバー
私は仕事の関係で昔から昼食は外食が多い。外食をするとき、以前にはほとんど感じなかったことを最近ひんぱんに感じるようになった。それはお店の接客である。最近どうも首をかしげざるを得ないお店が多いのだ。こういう経験は新しく開店したお店に多いが、二、三代にわたる老舗でも遭遇することがある。
「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」は丁寧に言うのだけど、それにまったく心がこもっていないのだ。心と言えばオーバーになるが全くこちらを見ずに、そっぽを向いて言っている人もいる。仕事で忙しくしているせいではない。ほとんどお客がいない時でも同じである。
料理店は料理を提供するのが仕事であって、それ以外は仕事ではないとの認識であろうか?つまり、お店に来てくれたお客さんにまったく興味がなく、感謝の気持ちもないように感じる。
今まで行ったことのないお店を探して行ったとき、お店の場所が分かりにくく電話で尋ねた。電話の応対は悪くはないのだけど、やっとそのお店に着いても、まったくその話に触れなかった。
「さっき電話をした者です」。「そうですか」だけで、少なくとも「大変でしたねぇ」くらい言うのはマナーではないだろうか?元々サービス業に向いていないだけではなく、普段の会話はどのようなのだろうか?と感じさせるお店だった。
「どこから来たのか。遠いのか、近いのか?どうしてお店を知ったのか」など、お客さんにまったく興味がないのであろう。営業という感覚だけでなく、人間関係において大切な何かを忘れているのではないか。
また、お客は私ともう一人しかいなかったお店の出来事。私以外の客は店主の友人のようだった。彼はその客とずっとしゃべっていて、私にはまったく関心がなく、そのためこちらを見ることさえしなかった。
そのお店の料理は私の好きな種類だったので3度訪れたが、他にまったくお客がいないときでも私には無反応だった。新店のため地元のTVでパブリシティがあったようだがお客さんはほとんどいない。
私の勝手な想像であるが、私と同じように感じたお客が複数いたのではないかと思われる。そういう客は2度と行きたいとは思わないのであろう。実際2度目に訪れたとき、他に若い女性客がいたのだが、彼女にも店主はまったく声掛けをしなかった。店主だけでなく、ホール担当の若い女性スタッフも、入店時に「いらっしゃいませ」、支払い時に「ありがとうございました」と形式的な挨拶をするだけだった。
客は食事をするためにお店に行く。食事をすることがもちろん第一義的な目的である。ただ、単に食事をするだけなら、弁当を買って食べたほうがほるかに安上がりである。弁当の約3倍するお店に行くのは単に食べるだけでなく、食事を楽しむためである。
お店の接客の基本はそこにある。弁当より高く、しかも多くの同じようなお店が存在する中で、自分のお店を選択してもらっているという感謝の気持ちがまったく感じられないのだ。
お店の経営者、スタッフも他のお店にお客として行くときを想像すれば容易に理解できるはずである。相手の立場に立てない、想像力の欠如である。逆に提供する立場になるとそのことは頭の中から飛んでしまうのであろうか?
それとも己の料理と店舗に自信過剰で、「お客は勝手に来る」との思い込みがあるのであろうか?私の知っている超1流の料理人-フランス料理世界大会で金メダル、銀メダル獲得の料理人―ほど謙虚である。お客の食べている表情をさりげなく観察して、次の料理の味付けに生かそうとしているように思われる。
極言すれば中途半端な料理人こそ、自信過剰に陥りやすいのであろうか?振り返って淳風塾の接客はどうであろうか、と反省する昨今である。
2023年04月