中学入試で人生は変わらない! バックナンバー
有名中学受験は本当に価値があるのだろうか?塾業界に携わるようになって約40年になるが、広島を取り囲む状況は中学受験の意味と位置づけが大きく変化しているように思われる。
広島も三十年ほど前までは中学入試を受ける児童が多かった。2022年1月現在の広島市内の11歳の人口は約11000人。しかし、平成元年には約15000人。つまり、この三十数年間で4000人、率に直すと27%も減少していることになる。
企業経営で言えば、売り上げの12%減少すると危険ゾーンと言われている。それが27%とは恐るべき減少率である。このような少子化が受験生の数の減少の第一の理由だろうことは間違いない。1年ごとに多少のアップダウンはあっても、長期的には確実に減少傾向にあることは否定できない。
少子化だけでなく保護者の経済的な背景もある。20年を超える個人所得の減少がその理由の一つにもなっている。合格すれば20万円前後の入学金が必要で、授業料は1か月約5万円かかる。制服など付随する費用を入れればさらに膨れ上がる。私立中学に入っても多くの生徒は塾通いをすることになるので、さらに上乗せの費用が生ずることになる。
それだけでない。中学入試に関する「そもそも論」がある。つまり有名私立に入れば、良い大学に入り良い会社に入れるとの神話はすでに崩壊している。たとえ良い大学に入れても、卒業した大学だけで出世ができるほど世の中は甘くない。企業の中で実績を上げなければ、学歴でだけで出世できる仕組みはとっくの昔の話になっている。
それどころか、中学受験で合格しても待ち受けているのは、決して夢のような学園生活ではなく「二こぶ化」である。つまり、少数の上位者と多数の下位者の二極分化である。生徒・保護者の中には根拠もなく、「入ってしまえば真ん中より上になる」と錯覚する人もいる。
一方では「有名中学・高校」では、妙なエリート意識を持たせる学校もある。そのため広島市内の私立大学に進学することを「良しとしない」風潮の学校もある。換言すれば大都市圏の大学に進学せざるをえない雰囲気を醸し出す学校もあるということだ。
塾という現場に立っている者にとっては、大都市圏の大学と広島の私立大学の偏差値がほぼ同じであれば、生活費の高い大都市に行く必要がないと考えるが、当の本人・保護者にすればそうはいかないようだ。学校の説明を真に受けて、有名中学・高校からは広島の私立大学には行かないと信じ切っている保護者を私は知っている。
マクロから捉えると、中学受験数の減少にはもう一つ大きな理由がある。公立高校、特に六校のレベルアップである。無理をして中高一貫の私立に行く理由がなくなりつつある。六校の上位高校の大学入試実績は中高一貫の学校に肉薄している。その傾向は公立高校の実力重視の入試改革によってさらに縮まるのではないかと思われる。
それぞれの子供の成長には個人差がある。10歳を過ぎたばかりで、まだ子供子どもした児童に無理に勉強を強いるとどうなるか?塾に煽(あお)られ保護者が熱くなり、熱に浮かされたように子供に勉強、勉強と追い立てると、正常な発達を阻害しかねない。
頭痛が頻繁(ひんぱん)に起きたり、チック症状を起こしたり、登校拒否を起こすこともある。そういう例をいくつも見てきた。中学受験を希望する場合は、自分の子供の適正と性格をしっかり把握して欲しいと願っている。
中学受験で人生は大きく変わることはない。12の春で人生は変わらない。長い人生、高校入試、大学入試、就職などチャンスは何度もある!
2022年03月