公立高校入試制度改革の問題点 バックナンバー
現在の公立高校入試の仕組みは現中学3年生で終わり、現中学2年生が受ける高校入試から仕組みが大きく変わる。
本年度5月のこのコラムでも書いたが、変わった仕組みの内容と、それに対してどのように対応しなければならないかを再確認したい。
第一の仕組みの改革は推薦入試(第一次選抜と呼んでいた)の廃止である。生徒数の減少対策として、高校は優秀な生徒の確保のために推薦入試の制度を利用してきた。つまり、一般の入試で楽々合格するレベルの生徒の先取り(囲い込み)であった。そのため入試全体としてとらえればほとんど影響がない。
影響が大きいのは、合否決定の評価割合の大幅な変化である。具体的に言えば、入試得点の割合を増やし(約50%から60%)、内申点の割合を大幅に減らし(約50%から20%)、新たに加わる自己表現の割合(20%)である。
さらに言えば、現在の保護者の時代の入試の問題と現在の問題のレベルには雲泥の差がある。保護者が高校受験した時代では、理科・社会など覚えておけばできる問題が大半であった。今ではそういう問題が極めて少ない。覚えるべき知識を覚えるだけでなく、それを活用(応用)できるかどうかが試される問題である。
加えて、それぞれの教科の問題の量も昔とは比較にならない。保護者の時代はB4で2枚だったものが、この数年の入試の量はどの教科もA4でほぼ8枚である。しかも試験の時間は以前と同じ50分間で同じである。数学、英語、国語など、かなりのスピードで解かなければ時間内に解くのは不可能である。
また、実力が今一歩であっても、内申点(学校の成績)で実力不足をカバーすることが可能であったが、現中学2年生からは今までと同じようにカバーできるものではない。内申点の割合が50%から20%に下がるということは、例えれば実力点不足を10点カバーできていたものが、4点しかできないということである。
さらに20%の自己表現が新たに加わる。自己表現は、『自己を認識し、自分の人生を選択し、表現することができる力』」が、どのくらい身についているのかを見る」ために、面談方式で実施するという。5月にも書いたが、これらの思考力、換言すれば問題意識は一朝一夕に身に付くものではない。
*『 』内は広島教育委員会発表
どういうことか?『自己を認識し、自分の人生を選択し、表現することができる力』とは言うは易し、行うは難しである。
第一に、「自己を認識し」とは自分の性格の長所短所をだけでなく、記憶力、判断力、決断力など能力を把握することを意味する。大人でも自己認識ははなはだ困難である。
第二に、それを理解した上で「自分の人生を選択」するだけでなく。さらにそれらを適切に表現できるコミニュケーション能力を求めている。
この目標設定をした人たちに、逆に質問したい。「あなた方は、中3のとき『自己を認識し、自分の人生を選択し』、教育界に入ったのか、と。
人生というのは目指している方向に必ずしも進めるものではない。万一進めたとしても、それが自分に合わないと感じて、次の道に進むことは多い。逆に置かれた状況のため自分の目指す方向とは全く違っていても、そこに楽しさ、喜びを感じることもある。
かいつまんで言えば、人生は予想のつかないことに満ちている。それが人生の苦しさでもあり、逆に喜びでもある。私は教育委員会のこの設定は、高校受験の生徒たちにとって、つまり今の子供たちにとって喫緊の課題とは思えない。
『自己を認識』することは極めて大切ではあるが、今の子供たちに最も欠けているのは「逞しく生きる」ことではないだろうか。どんな環境でもそれを生き抜く逞しさを育成する方向性こそ、最も喫緊の課題ではないかと思う。入試にもそれを取り入れる方法はないのだろうか?
2021年09月