「優勝をお金で買おうとするな!」 バックナンバー
組織対組織において、強いライバルに勝つ最も効果的な方法は何だろう?いくつかの方法が揚げられるが、資金さえ豊富にあれば相手組織の優秀な人材の引き抜きであろう。日本でも企業の引き抜きが頻繁に行われるようになった。終身雇用が常識であった一昔前には考えられなかったことである。
当時には引き抜く方も、引き抜かれる方も何か後ろめたさがあった。しかし、今やそういう感性はほとんど消えている。引き抜かれる者にとっては、自分の力を認めてもらっているだけでなく、収入が2倍、3倍になる場合もある。
この引き抜きは一般の企業においては、万一それぞれの企業の存続がかかったとしても、その業種の存続に影響はない。例えば、車の製造業において、A社がB社の優秀な技術者を何十人と引き抜いたとする。その結果B社が倒産しても車産業自体の存続が危うくなることはない。
ところが、これを頻繁に繰り返してはいけない業種もある。プロ野球などに象徴されるプロスポーツ業界である。Cチームが勝つために資金をつぎ込み、他のチームから優秀な選手を引き抜き続けたとする。
選手生命が短いスポーツ選手など、引き抜きにあった選手にとっては年棒の大幅なアップは魅力的だろう。そのため高い年棒を出してくれるチームに行きたいと考えても不思議ではない。当該の選手に「チーム愛」を押し付けることは野暮というものだ。
しかし、Cチームがそれを繰り返した結果、圧倒的な強いチームになったら、そのプロスポーツの存続が危うくなる。つまり1チームが突出して強ければ、そのスポーツの楽しみが減る。こういう自分のチームさえ良ければいいという身勝手な行動を防止し、機構全体として発展させるために、メジャーリーグでは各チームにおける選手年棒合計の上限を設けている。
この上限を越したチームは罰金をメジャーリーグの機構に支払わなければならない。機構はそれを、資金が脆弱なチームに分配する仕組みを導入している。こうしてお金で自らのチームしか考えない自己中の考え方が通らない仕組みを作り、メジャーリーグ全体の発展を図っているのである。
昨年末に、ある日本の野球チームは数十億円かけてチームの強化を図った。その前の年も同じようにお金に物を言わせて、貪欲にFA選手の獲得を図った。それでいて優勝できない体たらくである。
どのチームも同じように毎年新人の指名選手を取っている。それでいて、さらに他チームが育てた選手を欲しがるのはなぜであろうか?それは選手を育てられないことを内外に宣言しているに等しい。
ましてやそれで勝てないとは一体どういうことなのか!カープを見て欲しい。資金が贅沢にないチームなので、指名して入団した選手を大切に育てる。育った選手の中にはFAで去っていく者もいる。
それは十分な資金がないために引き留められない。今までFAで獲得した選手はゼロ。FAで他チームに取られるだけである。それでいて連続のリーグ優勝を果たしている。
その原動力はカープを愛する選手、ファンの一体感以外にはない。どの球場でも赤いユニフォームを着たファンで一杯である。彼らの応援が選手に勇気を与えている。お金に物を言わせてFAで獲得した選手の中には、それ相応の活躍がなければ悲しい晩年の選手生活を余儀なくされる者もいる。
プロ野球機構は、機構が全体として発展する政策を取って欲しい。いつまでもお金で勝ちを買うような自己中を許す仕組みを続けて行けば、サッカー、バレー、バスケットボールなど多様なスポーツが盛んになっている現在、やがては斜陽産業となるかもしれない。
2019年06月