「宮川紗江選手の体操協会告発問題」 バックナンバー
アメフトタックル事件を端緒として、アメフトだけでなくチアリーダーのパワハラが発覚。それは単にスポーツ関連の問題に留まらず、日大の在り方が問われている。私が2018年6月の「ひとりごと」で指摘したように、日大を希望する受験生の激減があるのではないか?
日大の問題が冷めやらぬ間に、今度はアマチュアボクシング連盟の異常な権力の在り方が厳しく問われた。これもまた先月(2018年8月)に取り上げた。
続いて今度は女子体操の問題である。今回の問題もかなり複雑な様相を呈している。これを単純化すれば以下となる。
1 リオ五輪代表の宮川紗江選手のコーチである速見佑斗元コーチが、宮川紗江選 手への3年前の暴力によって、無期限停止処分を受けた。
2 宮川紗江選手が会見し、以下を主張
① (速見佑斗コーチの指導は)暴力とは思っていない。むしろ、重すぎる処分
② 処分は速見コーチと自分を引き離そうとするパワハラ
③ 速見佑斗コーチを排除して、朝日生命の利益のために速見コーチと自分を切り 離すことが、この暴力問題の背景にある。
④ 強化本部長の言うことを聞かなければ『あなたは五輪にいけないわよ』『速見 コーチより100倍も教えられる』」とも言われたと強く訴えた。
⑤ NTC(ナショナルトレーニングセンター)の使用も制限されている。
彼女の主張は明確である。「引き続いて速見佑斗コーチに教えてもらって、五輪で金メダルを目指したい」である。
3 宮川紗江選手の会見に対して、当初塚原夫妻は報道陣の取材に対し、「全部ウ ソ」「黙っていないわ!」と断言。
4 五輪のメダリストからも塚原夫妻の在り方に批判が湧き出る。マスコミでも夫 妻に対する強いバッシングが起こる。
5 塚原氏の「全部ウソ!」発言に協会幹部は記者会見で、塚原氏を批判。
6 5に対する世間の強いバッシングに、夫妻が連名で謝罪文を発表。その内容は 「感情にまかせた発言によって、宮川紗江選手と対立姿勢にあるとの印象を与え てしまった」。夫妻のパワハラと朝日生命への引き抜きは完全否定。
7 速見佑斗が記者会見し、暴力を認めて謝罪。しかし、宮川紗江選手を指導した いとの希望を述べる。
8 3年前の速見佑斗コーチの暴力的指導(宮川紗江選手を平手で殴る)映像が流れ る。
上記が大まかな宮川紗江選手のパワハラ問題の経緯である。速見佑斗コーチの暴力的指導の問題から、今や体操業界の体質の問題に発展している。これについていろいろな見方があるが、アメフトの問題と極めて類似している。単なる暴力的指導の処分と一選手へのパワハラだけでなく、その背景が問題になっているのである。
私がいつも指摘しているように、細かく分析すればするほど最も重要な部分を見落としがちである。この問題が明るみに出た「宮川紗江選手の記者会見」で、その本質的な部分は明確である。
つまり、彼女の記者会見の持つ意味である。選手の判定不信により、91人中55人もの出場辞退者が出たにも関わらず、いつの間にか完全な復活をした大権力者に、果敢にも1人で戦おうとしたのである。
宮川紗江氏の体操協会の告発を、他人事としてではなく、大会社の社長を一社員が告発したと考えると明らかになる。おそらく彼女は選手生命を奪われることを覚悟の上だと思われる。大権力者にたった一人で立ち向かうということはそういうことなのだ。
この原点となった速見佑斗コーチの暴力的指導は許されるものではない。しかし、彼だけでなく、それに厳しい処分を下した当の塚原強化本部長の過去の暴力的指導も、彼女に指導を受けた過去の選手が「週刊文春」で告白している。さらに朝日生命への引き抜きについても、多くの人たちが口を揃えている。
今後も次から次へと新しい証言が出るに違いない。集中した権力が長く続いた場合は、何度も言うように腐敗が生じるのは歴史が如実に示している。権力を持っている者は「押さえつければ押さえ込むことができる」と、今までの経験則から思っているだろう。しかし、それが不可能な時もある。それが歴史の変革期の特色だろう。
2018年09月