「貴ノ岩暴行事件で見えた協会体質」 バックナンバー
貴ノ岩事件について、マスコミが盛んに報道している。貴ノ花が無言で歩く様子、相撲協会の幹部が貴ノ花部屋に何回も通い、郵便受けに書類を入れる様子、さらには池坊保子氏の発言を取り上げたり…。
これら報道を見るにつけ、酷似した社会問題が思い浮かぶ。それは学校におけるイジメ問題である。相撲の世界で言う「かわいがり」、学校でいう「イジメ」はあってはならないことだが、今回のそれは、「かわいがり」などと曖昧な表現で済まされない重大な「傷害事件」である。
イジメ問題について言えば、学校でイジメが起きて教師に伝えても、教師が握りつぶす場合がある。その言い訳は決まっている。「遊び、ふざけ、プロレスごっこと思った」。殴ったり、蹴ったりしていて怪我をさせていて、誰が見ても明らかなイジメで、さらに犯罪(傷害罪)でも、マスコミが大々的に報道しない限りは、その言い訳を押し通す。
学校が最も嫌うのは警察への届け出である。警察は犯罪を犯罪として事実関係を調べる。曖昧な「遊び・ふざけ」で済まさない。大怪我を受けた貴ノ岩への暴行・傷害事件は、貴ノ花親方が警察へ届け出ることによって発覚した。万一、先に相撲協会に届け出ていたら、単なる内輪の揉め事で終わっていたのではないか。
つまり、相撲協会を学校と置き換えれば分かり易い。入院が必要なほどの大怪我をしていても、相撲協会に届け出て、彼らの聞き取り調査に応じよとの言い分である。実際、貴ノ花の証言によれば、「うちうちで済む話だろう」と、事件の取り下げを求めたという。まさしく「イジメ」問題と根っこは同じ。
相撲協会側の言い分、貴ノ花親方の沈黙、マスコミの報道など、物事は微に入り細にいると何がなにやら分からなくなる。相撲記者の中には、協会から情報を貰えなくなることを恐れて、明らかに協会の言い分をまき散らす人もいる。彼らの表現はワンパターンで、「暴力は決してゆるされないが…」の前置きをし、いかにも正義を装いながら協会擁護の論陣をはる。そういうときは単純に捉えると明確に分かる。
この事件の本質は貴ノ岩の態度が良いとか悪いとか、数日前にトラブルがあったとか、なかったではない。それらの議論は本質をそらすための議論のようにさえ思える。本質ははっきりしている。横綱の白鵬、鶴竜もいる中で、日馬富士が素手だけでなく、凶器のカラオケのリモコンで殴り、貴ノ岩に大怪我をさせたということだ。
明らかに傷害事件であり、刑事事件である。実際問題として、日馬富士は罰金50万円の刑を受けた。貴ノ花が警察に届けず、相撲協会に届けていたら、仲間内のトラブルとして終わっていただろう。実際、相撲協会は事件を警察から通知があったにも関わらず、犯罪者の日馬富士を本場所に出場させていた。つまりそれほど大きな問題ではないとの協会認識を如実に表している。
先日、貴ノ花が朝日TVに出演し、事件の経緯を語った。それによると彼はその都度協会に書類を提出していた。にも関わらず貴ノ花がいかにも「協力的でないか」を演出するために、相撲協会の幹部が貴ノ花部屋を訪れては書類を郵便受けに入れていた。事情が分かるとまるで底のしれた猿芝居のようだ。
はっきりしていることがある。相撲の世界では「かわいがり」という名のイジメ、暴力沙汰が今もなお日常的に起きているのではないか。
弟子をゴルフクラブで殴った親方は厳重注意だけで、貴ノ花親方のような重い処分を受けていない。逆に貴ノ花親方は報告義務を怠ったという言いがかり的で、形式的な瑕疵を理由に降格処分をしている事実がある。つまり、形式的瑕疵の方が、相撲協会では刑事事件より重いということになる。
相撲好きの子どもたちも保護者も協会の動きを良く見ている。これからお相撲さんになりたいと希望する人数は間違いなく減少するだろう。それだけではない。入門するにしても、日常的に暴力を振るう部屋への入門は激減するだろう。
2018年02月