「入試制度の歴史的改革」 バックナンバー
2015年1月の順天堂大学の医学部の入試では、誰もがアッと驚くような出題だった。たった1枚の写真を示し、「キングス・クロス駅の写真です。あなたの感じるところを800字以内で述べなさい」という設問である。想像をはるかに超えた出題に受験生が戸惑ったであろうことは想像に難くない。
実は、2014年12月に「中央教育審議会」が 2020年の入試改革に関する答申を出した。それに伴い学習指導要領も変わる。この改革は今までのそれらと比べ、極めて大きな改革になるという。
今までは多くの知識を覚え、その知識量が偏差値であったり、いわゆる「良い学校」「いい大学」に入るための、最も効果的な手段であった。つまり解答が一つだけの問題であった。
しかし、実際の社会においては答えが一つだけはあり得ない。多様な答えがあるのが普通である。この知識偏重の教育制度では、国際化の中で勝ち抜ける人材の育成は困難だとの認識がされたのだろう。
海外のデータもそのことを示している。2015年9月に発表されたイギリスの教育誌による世界の大学ランキングで、トップ100に入っている日本の大学は東大・京大だけで、他の旧帝大はおろか、有名私立大学は1校も入っていない。国際的な評価がそれを如実に実に示している。
ますますグローバル化される社会的な背景があり、世界の人口約70億人弱中、たかだか1億人の中でだけで生き抜ける時代ではなくなったことを、文部科学省も厳しく認識したのであろうと思われる。
新指導要領の基本はAL{アクティブラーニング(能動的な学習)}であり、キーワードは思考力・表現力・主体性・協調性である。それは知識偏重型の教育から、自分で積極的に考え、それを的確に表現する力を育む教育制度への質的な転換を意味する。ディベートも盛んに取り入れられることになる。
その上に、話せる英語が求められている。国内においても会議は英語になる企業も、徐々にではあるが増えつつある。企業自体が外国人を採用したり、国内の企業であっても、外国人が経営の主体となる時代である。新指導要領では小学生も英語は正規の授業に組み込まれることになる。
日産に象徴されるように、現在すでにその時代の先がけの企業もある。現在の子どもたちが中心となる時代は、それが「普通」になるのは間違いないであろう。
たとえ、知識量が多くても、それを駆使できる論理力と言葉を持たなければ、単なる物知りに過ぎない。何かを知りたければネットの活用で事足りる。しかし、自分の置かれている環境の中で、どのように行動すれば良いかは調べようがない。
自分が中間管理職になった場合を想定すれば良く分かるだろう。個々の部下の個性を見抜き、個々の部下にどのような仕事と目標を与え、それを実現するための適切な指示を与えるなど自分の頭で考え、行動するしかない。
文部科学省の入試改革及び指導要綱の改正は、明治以来の改革だと感じる人もいるだろう。しかし、ここで指摘しておかなければならないことがある。論理の展開には知識は必要不可欠な要素である。高度な論理展開をしようとすればするほど、より多くの知識が必要であることは論を待たない。
そのために、これまでのセンター試験が2019年に廃止され、2020年からは「高等学校基礎学力テスト(仮称)」と「大学入試希望者学力評価テスト(仮称)」が実施されることになる。これで一定の知識量を測定するのではないか。
「学びて思わざれば…、思いて学ばざれば…(孔子)」今回の改正は大改革であるのは間違いないが、いつの時代でも求められる人材は変わらない。淳風塾の広島本部教室では、バイリンガル教師が「小学校と中学英語は英語による英語の指導」を行う予定である。。
*参照:「週間現代」三月五日号
2016年3月