大学入試はどうなる? バックナンバー
ゆとり教育から、新指導要綱による授業が本年度完全実施となった。2011年に小学校、2012年は中学校、そして2013年高校で実施、移行期間を含めるとかなりの期間を要した。
ゆとり教育という美名のもとに実施されていた教育内容の平易化は、日本の子どもたちの学力を大きく落とした。それに慣れていた子どもたちにとっては、急激な変化は迷惑千万だったろう。基礎学力がついていないために、新しい内容に戸惑っている生徒も多い。
実際、現場に立つものとして、学力の低下は目を覆う現状に驚く。一例を挙げれば、中学生でまともに小数計算ができない生徒は、私が塾を始めた頃は極めて少数であった。しかし、今ではかなりの割合でいる。これでは数学だけでなく理科の1分野の計算問題ができるわけがない。
数年後をめどに、今度は大学入試の制度が変わるという。点数重視から人物重視への変更である。 現状の大学入試においても、推薦で入学するものが半数に上っている。大学生の半数が試験ではなく論文、面接によって入学している。さらにこれを助長するような方向である。
マクロで捉えれば定員と希望者の需給のバランスが崩れていることに起因している。定員切れを起こす大学、学部が今後ますます増えるであろう。学生数の確保のために、大学はAO入試を取り入れて、ますます広き門にしている。
実際、入試があっても、ボーダーフリー(誰でも入れる)の大学も増えている。いずれ国公立大学とて安泰ではない。交通の便の悪い大学、人口減の大きい町の大学など、その傾向は顕著になるだろう。それぞれの大学が生き残りをかけた戦いを強いられている。10年前にはほとんどなかった「大学のコマーシャル」がTVで盛んに流れていることがそれを象徴している。
学生数の確保のために、「人物重視」を錦の御旗として、学力のない学生を受け入れるのに躍起になる大学も出るだろう。大学に入るのは実に簡単な時代に入っている。昔、「いずれ大学は先着○名様粗品進呈の時代になる」と、私は冗談めかして言っていたが、それに近い状況が生まれている。
一方では、企業に必要な人材は変わってはいない。簡単に言えば「利益を上げられる」人材を求めている。各企業によって必要な知識レベルも落ちてはいない。むしろ、国際化の中でますます必要な知識量は増えている。
それだけではない。組織の中で生き、競争の激しい社会で生き抜くには、より逞しい精神力が必要とされる。ほんの20年前には見られなかった収入格差がどんどん広がっている時代である。自分の頭で考え、自ら行動できる人材を、より必要としている時代でもある。
数十社受けたが就職できなかったなどと、2,3年前にマスコミを賑わせたが、その企業で必要な人材ではなかったに過ぎない。大学は出たが就職がない者は、今後もっと増えるであろう。
つまり、大学に行けば何とかなるという発想は間違っている。今ではどのレベルの大学をどのレベルで卒業したかが問われる時代である。
今回の大学入試制度の変更はますます学力の低下を招くのではないか。それだけでなく、安易な若者を増やすだけではないか。
もちろん、塾に生きる我々は論文、面接が主流となれば、その対策を行わざるを得ない。今でも論文の書き方の指導もやっているが、それを指導の中心の一つとする在り方はどうなんだろう。日本の将来を考えるとき、大学入試の変更の方向は、果たして正解なのだろうか?
2013年12月